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福岡地方裁判所 平成12年(ソ)9号 決定 2000年7月21日

抗告人 A野太郎

右代理人弁護士 牟田哲朗

同 吉田奈津子

右復代理人弁護士 黒木和彰

同 椛島敏雅

相手方 三洋電機クレジット株式会社

右代表者代表取締役 辻恪

主文

一  原決定を取り消す。

二  福岡地方裁判所平成一二年(ル)第一四一四号債権差押命令申立事件における債権差押命令(以下「本件差押命令」という。)に基づく強制執行を本件調停事件の終了までの間停止する。

理由

第一抗告人の申立ての趣旨及び理由

別紙のとおりであるから、これを引用する。

第二当裁判所の判断

一  本件記録によれば、抗告人の本件調停事件申立て時点での債務総額は、八名の債権者に対して約一四〇〇万円余であり、そのうち現在債権者三菱電気クレジット株式会社に対する保証債務約二三七万円を主債務者が支払中であること、現在までの支払利息を利息制限法の制限利率に引き直して元本充当計算をすると、右債権者のうち、債権者株式会社アイフルに対する残債務額約一九三万円の残元金と未払い利息の合計は約一四四万円に、全日信販株式会社に対する残債務額約二八万円の残元金と未払い利息及び遅延損害金の合計は約二四万円となり、合計約五三万円の債務が減少すること、債権者株式会社武富士との間では、平成一二年五月二三日、和解金五〇〇〇万円の支払を受けることにより債権を放棄する旨の和解が成立し、同債権者に対する債務は現在では消滅していること、抗告人は、現在四九歳で、B山ホテルにおいて調理師として働いているところ、平成一一年の給与所得の支払金額は七一四万一五〇〇円であり、本件差押命令が発令される以前の平成一二年二月当時、給料手取り約三六万円の中から約一六万円を毎月債権者らに対して支払っていたこと、抗告人は、同年三月末ころ本件差押命令を受けたため、右給料から毎月約一六万円から約一九万円の金員が控除されることになり、その結果、右毎月の債権者らに対する支払は著しく困難になったこと、抗告人は、同年五月一一日本件調停事件を申し立てるとともに、本件差押命令に基づく強制執行の停止を求めるべく本件申立てをしたこと、債権者株式会社アイフル、同全日信販株式会社及び同熊本県信用保証協会は、本件調停事件の期日に出席し、抗告人に協力をする意向を示しているのに対し、相手方は、本件調停事件において調停に応じない旨の意向を示して本件申立てに反対したが、原決定後、抗告人代理人らの調停による解決の打診に対し、本件差押命令の停止を前提として月額五万円程度の支払が受けられるのであれば右解決に応じてよい旨の意向を示したこと、以上の事実が認められる。

二  右認定事実からすると、抗告人の債務総額は名目上は約一三〇〇万円と多額ではあるが、本件調停事件の手続において相当程度減額する可能性があり、他方、抗告人の収入や支払状況によれば、抗告人の右債務弁済による経済的再生への真摯な意欲及びその履行の可能性には高いものが認められ、相手方を含む債権者らも本件調停事件の期日に出席してこれに協力する意向を有しているものと考えられる。そこで、これらの諸事情を総合考慮すると、抗告人の右債務を巡る事件を本件調停事件の手続によって解決することが相当であると認められるとともに、本件差押命令に基づく強制執行の停止をしなければ、本件調停事件の円滑な進行を妨げるおそれがあると認めるのが相当である。

三  以上のとおり、抗告人の本件差押命令に基づく強制執行の停止を求める本件申立ては、現在では特定債務等の調整の促進のための特定調停に関する法律七条一項の要件を満たしているといわざるを得ないので、これと結論を異にする原決定は失当というべきであり、本件抗告は理由がある。

よって、原決定を取り消すとともに、本件差押命令に基づく強制執行が債権執行であることや前記認定の相手方の意向内容から、本件申立てを無担保にて認容することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 中山弘幸 裁判官 野島秀夫 佃浩介)

<以下省略>

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